これは一人のマイノリティーが書いた自分自身とこの国の救いなき来世についてのレポートである。W.ジェイムスは労作「宗教的経験の諸相」で“超感覚者は無敵である”と言ったが果たしてそうだろうか。この時代、むしろ私は“常感覚者は巨象である。我々はその足に踏み潰されないよう必死に逃れる蟻のようなものだ”と思う。しかし今、孤立の怖れを捨てて私はこう叫ばねばならない。
“人々よ、長い眠りから目覚めよ。無知の麻薬の快楽に耽るな。そしてこの警告を受け入れる人々に神の恵みあれ。”
旧勢力は「2%にしてくれ」と提案したそうである。受け入れられる提案だろうか。ヤマトで豚族とイカ族は旧エリート層で、彼らの家庭は電気も引いてあった。それを不当と憤る声も、「過去は過去」と言う者もいるらしい。人間はヒツジ族以下のクラスとされ夜あかりをつけることも禁じられていた。こうした膨大な負の遺産に取り組むガバメントの計り知れない苦労が偲ばれる。
昨年10月八千草さんが亡くなった時「ガバメントは本当にあった」と言っていたそうである。彼女がこのブログに関心を持っていたのは聞いていた。然し葬儀は仏式で行われたと報道された・・・残念ながら我がブログに説得力なかりしか。「身ぐるみ剥がれて放り出された」と旧体制を恨む子供たちの声がする。多分異星人の子だろう。奈良時代以来の光明が訪れた金沢では簒奪された財産の回復を求める訴状が山をなし、弁護士が鉄拳攻撃に耐えながら奮闘しているらしい。旧体制側にいたが立場が逆転して地球にいられなくなり星に帰る者もいるそうである。ブルドーザーがどんどん眼前に迫って来る夢を見て目が覚めた時、イツハクがジュラシックパークを次々と潰して耕地に変えているという噂を思い出した。
仏像のイメージが昼間現れたので何事かと思っていると「我々も食われた」と声がした。如来とは単に「来た者」という意味である。異星人は子供を連れて来て地球の誰かに寄託した後「喜んで食われる」と言うのを聞いて、誰も喜んで食われる者がいる訳はないだろうと思った。いずれ命は終わる時が来る、後は子供の無事な成長だけを願って自分の命は尽きてもいいと思うのだろう。寄託は有償だから有り金は使い果たして帰る望みもないのかも知れない。異星人の子供たちも地球で生まれた子供たちと同じ学校に行く。かつて悪魔の学校と呼ばれた教育制度は改善されたのだろうか。地球の子が「あの子たちは馬鹿ではないかと思っていたがもう大学を出ている者もいた」と言うのは、来たばかりで異星人の子らはまだ言葉が分からないからだった。
「時代が変わって人間の考えがどんどん過去に遡っている。救いが来ている証拠だ」と言われた言葉を書き留めておいた。過去とは古代エジプトの前、グノーシスの時代だろうか。グノーシスとは単に書かれた書物や概念のことではなく、その思想の発想原因となって実在する霊的集団を意味するだろう。人間には信仰心が具わっており、神々に救われると思って自分にゆかりのある神または信じて選んだ神に帰依した。信仰で死後救われた元型的記憶があったのだろう。これまで神々とはその実羊の仮面を被った狼で、カニバリズムの勝利者だった。
だから私に無神論を勧める者がいた。2000年前イエスが神々のバックアップを得てキリスト教を起こしたのも唯一救いの道を創設するためだった。それまでの宗教はみな異端だった。今回のハルマゲドンも神々の計画の発動だった。霊界でブルーブックはみんな知っている事だったが、永く続いた厳しい不条理の体制が変わるとは思えなくて誰も信用していなかった。これがラストチャンスなのだ。あなた方は今まで通りの方が良いと思うのだろうか・・・・
ヴェガ星人は完全ベジタリアンだそうである。マゼラン星人は嘘吐きで、木星人は謎かけする・・右と言えば左が正しいと言ってその理屈を述べ、左と言えば今度は右が正しいと言う。三島由紀夫は後述するように「美しい星」という作品で自分たちは別々の異星人と信じる4人家族の話を書いている。ではなぜ異星人がはるばる地球にやって来るのかと反問しない者はいないだろう。まさか物見遊山が目的ではあるまい。それは食料のためである。人間の命は麦・米・野菜・果物などの植物の実りにより保たれ、草食動物は野草を食べて生きる。人間も肉食動物も他の動物を食べるが基本は緑の環境がなければならなし、それはこの世もその裏返しであるあの世でも同じである。「三体」という本が売れており確かに読んで面白かった。そのあと未来を覗(うかが)ってみようとSFを読んだ。
①サピエンス全史・上(ユバル・ノア・ハラリ)
第2章「虚構が協力を可能にした」を読んでこの本を取り落とした。人間が神を信じることによって救われるという宗教心が作者の言う虚構なのである。作者にとって来世は眼中にないのだろう。サピエンスが宗教心を具えていたのは彼らが地球に誕生する前の時代に神によって死後に救われたという潜在意識があったからではないだろうか。しかし古代宗教もユダヤ教も仏教もヒンズー教もイスラム教も救済に失敗したから宗教は虚構だというのなら逆説的に正しいかも知れない。アタリが言う通りである。宗教を乗っ取って宗教心ある信者を食い物にする悪魔がいて、キリスト教さえその害を運ぶ宿主にされた。マタイも「十戒グループは付きまとうな」とはっきり書くべきだったと悔やんでいるらしい。「学者がいなければもっとうまく行った筈だ」とも言われたが、学者とはオリゲネスやニーチェやドーキンスを指すだろうし、ハラリもその同類でSF「華氏451度」的未来ではこの本は焚書の対象か。下巻も後続のシリーズも買わないだろう。⑥星を継ぐものがサピエンスについて驚異的な仮説を立てている。
②三体(劉慈欣)
夥しい自殺・続発する殺人の負のスパイラル。VRスーツを装着してプレイする三体ゲームがこの作品のドライな雰囲気を象徴している。だから真面目にとってはだめよという前提なのだろうが・・・。とは言え出だしの紅衛兵による国中の大動乱は重い歴史的事実で当時我々も呆然として隣国の成り行きを見ていた。
このSFの中心人物である天体物理学者・葉文潔一家はまさにその火中にあって、理論物理学者である彼女の父も紅衛兵による折檻で殺された。当時の権威者たちの多くが自殺に追い込まれたが「エピソード」の項に書いた老舎もその一人だったとは知らなかった。母と妹は父親を批判する側に廻って敵対し、紅衛兵に属した妹はそのブント同士の争いで銃弾に当たって死んだ。葉文潔が抱く絶望は分からないではないが、それが中国の国家理念または指導者に対するというより人類そのものに対する絶望に飛躍するとなれば、我々にとってはた迷惑な話である。今日諸外国は残された共産主義国である中国及び北朝鮮に際立った特異性を見出しているのだ・・・しかし振り返って見れば、1970年代~1980年代当時は米ソ対立は絶頂に達し、誰しも切迫する世界的危機を身近に感じていた。
三体ゲームでは三つの太陽が及ぼす乱紀と恒紀の繰り返しを正しくカレンダーライズすることが科学者に課された命題である。このゲームは地球三体協会(ETS-アース・トライソラリス・オーガニゼイション)と呼ばれる団体が会員集めのために作ったものであることが後で分かる。三体問題に解はないと言われているが、ここに登場する魏成という天才的数学者が解の試案を作ったらしい。その内容と評価はこの巻では明かされていないが、近年カリフォルニア大学教授とパリ第七大学教授が「適切な初期条件下では、三体は互いを追いかけるようにして、8の字を描くようになる」との法則を見付けたらしい(p-219)。中央のくびれが朝歌ということになる。8の字とはメビウスの帯、または無限大のことで、つまり解がないと同じことではないか。もし三体とは過去・現在・未来の寓意だとすれば、未来をカレンダーライズするのは所詮無理な話だろう。もう一つ三という字で思い出すのはキリスト教の三位一体である。この国の思想には人のみがあって神も霊も否定される。「人類全体がだれも神への祈りを聞いてくれないところまで到達したんです」「ほんとうのところ、すべて神様が---ユー・フェイ(魏成の妻)のいう“主”が---もはや自分自身をさえ守れなくなっていることが原因なのだ」(p227-228)と魏成は言う。神もまた多数の同じ志の仲間が欲しいのである。
文革後、葉文潔は大興安嶺の山林伐採地区に下放された。そこで党の役人に文書への署名を求められたが、あくまで拒否したために、真冬に頭からバケツ一杯の水を掛けられて命の危機に陥り、近くにあった紅岸天文台基地の車で病院に搬送された。その時偶然彼女に付き添ったのが、かつて大学生時代に旧知の仲だったエンジニアの楊衛寧(ヤン・ウエイニン)だった。彼女が天文台に採用されたのもその高い能力を知っているヤンの後押しがあったのだろう。ヤンと葉が思い合いながらお互い素知らぬふりで仕事する様子は上手い筋立てである。結局二人は結婚し葉は娘ヤン・ドンをもうけるのだが、ヤンは葉が二人の間の子を宿していることも知らず天文台基地で事故死した。その事故には葉の止むを得ぬ隠された選択があった。
紅岸とは地球外知的生命とのコンタクトの試みで、そういうプロジェクトが実際にあったのかどうか私は知らないが、その活動は1000光年以内の2000万個の星を監視し、200光年以内の10万個の星に送信することになっていた。ある時彼女は上司の眼を盗んで地球の陥っている艱難と異星からの救済を求めるメッセージ(p384)を発信した。これに対し約8年半後、「応答するな、応答するな、もし応答すれば送信源の座標は特定されあなたがたの惑星は侵略される(p388)」との返信を受け取った。返信の来た方向と往復に要した時間からそれがアルファ・ケンタウリと推定され、そこには滅亡と復活を繰り返す三重星系の苛酷な文明があり、住民は移住を切望しているとのメッセージを四時間にわたり受信した。これがゲームの原案であろう。その後彼女は大学で天体物理学教授の職を得たが、今はリタイアしている。
天文台基地のあった僻地の近くでマイク・エバンスというアメリカ人がたった一人でかつて緑地だった荒地に渡り鳥の繁殖のための植林をしていた。天文台で働いていた頃、葉文潔はエバンスと知己になり二人は互いに地球の現状を憂え、三体星による救済を願う者として意気投合し、同志となって再会を約した。やがてエバンスは父が石油業で残した膨大な遺産を受け継ぎ、タンカーを改造しジャッジメント・デイと名付けられた浮かぶ通信基地を作った。そして二人は再会してETSが結成され葉文潔はその会長に納まった。現在ETSは降臨派と救済派と生存派の内部対立を抱えている。
この物語の主人公はワン・ミャオというナノマテリアル開発研究者だろうか。彼は警察に呼ばれ作戦司令センターに来るように言われ、そこで最近理論物理学者の自殺が相次いでいることを知った。葉文潔の娘楊冬(ヤン・ドン)も「物理学は存在しない」と書いた遺書を残して自殺していた。彼女は超電導コイル加速器による実験で何度同じ条件で実験しても違う結果が出ることに絶望していた。ワンは警察に科学フロンティアと呼ばれる研究会の会員になるよう要請されるが断る。また既述ユー・フェイにナノマテリアルの開発を止めるように言われ、更に三体ゲームをトライするよう勧められる。ゲームの内容がどんなものかはワンがプレイした体験を追って読者に明かされる。また彼は日頃日常的な風景の写真を撮ることを趣味としていたが、最近撮った写真に時間を表すらしい意味不明の数字が映っており、それがコマごとにどんどんカウントダウンしているのを発見する。更にユー・フェイに教えられて見た夜空の星のまたたきにもカウントダウンが現れる。残り時間はもう1000時間余りだがタイムアウトで何が起きるかは分からない。
ETSの大会が開かれゲームの成績優秀だったワン・ミャオも招かれていた。そこで殺人事件と爆破事件が起きるが、ETSの内部対立が原因であろう。大会で基調演説した葉文潔は逮捕されて尋問され、加速器による実験は二年前に三体世界から送られてきた二つの陽子--プログラムを組み込まれた陽子で智子と呼ばれる--のせいですべて失敗したこと、智子はアルファ・ケンタウリから三体艦隊が地球に到着するのに要する四世紀半のあいだ人類の科学を停滞させるのが目的だったこと、また急進反主流派である降臨派のエバンスが三体から送られたメッセージをディスクに落としジャッジメント・デイに秘密保持していることを明かした(実はワン・ミャオの写真に現れたカウントダウンも智子のせいだった)。ジャッジメント・デイにあるディスクをどうやって入手するか、公安と世界から集められた軍人たちがアイデアを出して協議し、採用された案は大きな豆腐を車輪のついた台に載せ、それを平行に、例えば上下10センチ間隔でピンと張られた何本もの釣り糸に向かって押し出すような方法だった。豆腐は10センチ間隔で横にスライスされるだろう。このアイデアを出したのは死狂というポリスだった。ナノワイヤーはワン・ミャオが調達し、計画はパナマ運河で実行された。上下50cm間隔の見えないナノワイヤーは両端を運河の両岸に固定されてある一ヵ所に縦に張られている。ワイヤーはそれと知らず前進するジャッジメント・デイを舳先から船尾まで乗員もろともスライスした。船の指揮センターにいたエバンスは三体にカットされた。
作戦司令センターは入手したディスク情報から三体文明は11次元までを操(あやつ)る超先端的な科学を持っていること、地球に向けて三体宇宙戦艦が発進したこと、またエバンスが上述p388のメッセージに対して応答し、この返信によって三体側も地球までの距離を把握したことが分かった。作戦司令センターにいた全員は空中に現れた2秒間のメッセージ「おまえたちは虫けらだ」を見た。
このSFが中国で書かれたということにどういう意味があるのだろうか。地球文明の歴史はヨーロッパを中心に発達したことになっているが、西欧人にはナノワイヤーという発想はなかったと思う。使徒行伝に出て来る魔術師シモン(グノーシスの祖とも言われる)は空中浮揚したがペテロに見破られた。この二人はナノワイヤーのことを知っていたのだろう。日本の神話にもタケミカズチが逆さに突き立てた刃の上に胡坐をかいたと言う伝説があり、これもナノワイヤーを使ったトリックであろう。従ってタケミカズチはギリシャまたはヘブライからの渡来人だったのであろう。このSF「三体」で、ただ1人キリスト教の信者と思われるユー・フェイがワン・ミャオにナノワイヤーの開発を止めるよう懇請するが、これは「主」がからむ別の事件でもナノワイヤーが使われて「主」を窮地に陥れた出来事を暗示している。一体このトリッキーなナノワイヤーはもともと誰がどのようにして開発したか疑問が湧く。
中国は欧米の文化とは全く別な体系で存在し、欧米人の知識の欠落を補っているとすれば、両者は互いに拮抗しその地位を譲らない関係が続くのだろうか。
昔の記憶であるが、中学生の私はある時家から町までの通い慣れた道を歩いていた。道脇に電柱のあるあたりで、突然腹部に強烈な痛みを感じた。そんなことが前にもあったことを思い出していた。別段身体に怪我して血が流れている訳ではなかった。
③美しい星(三島由紀夫)
作者の主観が強引に出過ぎていると感じるのは他の三島作品と同じであろう。父・重一郎は火星人、妻・伊予子は木星人、息子・一雄は水星人、娘・暁子は金星人であると信じる飯能在住の大杉一家の物語である。この物語で彼らは自分たちは誇り高い異星人家族であり、人間とは地球人即ち劣った存在と認識しているが、“A sound mind in a sound body”という諺はある人間において魂と姿がマッチし中身も身体も人間であることを意味するだろう。むしろ異星人の方が真実の姿は異形の生き物であるという考え方が一般的である。暁子の恋人竹宮は金星人であると自称し金沢に住んでいて、暁子も重一郎も訪れる金沢の街の描写はそんなに悪くない。他方仙台に住む邪悪な別のグループは白鳥座から来たことになっており、作者が描写する仙台はいかにも禍々しい場所である。仙台市民からこの物語にクレームがあったと記憶しているが、私も例えば京都や四国を悪く言うのは心理的に悩ましい。他にも悪魔が住むとされる良くない都市はあるが私は書くのをためらっている。街はそこに何がいても外面的な良し悪しの区別はないと思うが、金沢と仙台については私は作者とは逆に捉えていた。
暁子は金沢で恋人竹宮と会い妊娠する。地球にいる霊たちの中には地球で生まれた者(サピエンス)も地球外から来た者もいてプールされ、そこから何らかの条件で選ばれて人間になるのだろうが、必ずしも人間になれない者もいる。人間になったら外見や性格から地球人か異星人か見分けがつくまいが、同じ星から来た者同士は自然と惹かれ合うのかも知れない。宗教では何星人かではなく生まれる前人間だったかまたはどんな動物だったかを注目している。物語の最後で四人は一緒にUFOに乗るがこのUFOは一体どの星に行くのだろうか。地球以外の環境は人間が住むにはどれも苛酷である。これも①と同じく焼かれる本か。
しかし三島のために弁護すれば、市谷でやったことは唯一強力な武器の所有を認められる自衛隊が霊界でこの国の悪に恰も侍のように死も恐れず立ち向かう力になれと意識改革を訴えたのではないか。霊界の警察がしっかりしているから死後も安全な国があり、クリスチャンの国王がリーダーシップを揮って自国から霊界の悪を排除している国もある。北欧のある国では新たに人間だけが団結して旧体制に対して立ち上がる動きがあったようである。
④ソラリス(スタニスワフ・レム)
名作の名に値すると思うが作者は無意識のうちに共産主義の理念に迎合しており、透徹した視座に立っていたとは言えないだろう。
・(ソラリス学で)論争の対象となったのは海である。それが有機的な形成物であることは認められていたが、生物学者はそれを巨大な癒着体のような、原始的な形成物であると考えた。つまり恐ろしく巨大に成長した一つの細胞のようなもので、それが場所によっては百マイルの深さに達するゼリー状の覆いで惑星全体を取り囲んでいるのだ、というわけである。(P-30)
海は生物の生みの母である。三好達治の詩「日本では海の中に母があり、フランスでは母(mere)の中に海(mer)がある」はよく知られている。ソラリスにも三体問題がある。この惑星は二つの太陽とセットになっているが定まった軌道を運行している。それはこの海が絶えず変化する二つの太陽との位置関係に合わせて自在に惑星自身の重力をコントロールするからである。ここにSFらしさがあるがその仕組みは解明されず謎のままである。
・「本質的にはここ(ソラリス問題)で賭けられているのはソラリス文明の究明以上のことだ。われわれ自身のこと、人間の認識の限界が問題になっているのだから」(P38)
ソラリス問題は科学的解明や技術的応用の適不適以前の、人間の認識の問題だととらえているのは正しいと思う。これはそういう作品である。どう考えてもソラリスとは霊界なのであるが、科学万能の未来を標榜する共産主義では霊界の存在を全く否定しそれを認識しようと試みることさえ非科学的・非理性的・反体制的とされる。ここに悪がたやすく死後の世界を独占して跳梁する余地がある。人間は認識の幅を広げることを求められている。
・私の脳が私の求める幻覚を何でも作り出してしまう。ごく普通の夢の中でさえも、自分が現実には知らない人と会話し、そういった夢の中の登場人物たちに質問をし、彼らの口から答えを聞く、ということが起きる。こういった人物は…本質的には自分の精神の産物、いわば一時的に分離して独立しているように見せかける自分の精神の一部に過ぎないにもかかわらず…どんな言葉が彼らの口から出て来るかは彼らが実際に話しかけてくるまでは私たちにもわからない。それにもかかわらず彼らの言葉は本当に私たち自身の心から分離した一部によって準備されたものなのだ。(P80)
夢とはもう一つの現実であり死後我々が例外なく訪れる場所だと分かってもらいたくて私が孤軍奮闘しているのだが、レフおよび圧倒的多数にとって単なる脳内妄想に過ぎない。
・彼女(ハリー)はすぐにドレスを脱ぎにかかった。ところがそのとたんなんだか奇妙なことがわかった。ドレスを脱ごうにも脱げなかったのだ。なにしろボタンが一つもなかったからである。真ん中の赤いボタンは見せかけのかざりだった。ファスナーであれ他の種類のものであれ開閉できる場所はなかった。ハリーは途方に暮れたように微笑んだ。
主人公クリスは惑星に探検隊員として派遣された。その元恋人ハリーは既に死んでいるがソラリスの海は彼女のレプリカントを作り出す(クリスは海が彼自身の記憶を元にハリーを再生したと思っている)。彼女には生前の記憶が具わり(レプリカントがすべての記憶を回復するだろうか?)恐ろしい力がある---誰でも霊界には人間のそっくりさんがいる。霊は考えられない程強い力を持っている。物語上で彼女は自分が死んだことも知っており、他方一体何者であるか理解できないという点は矛盾している。霊の衣服に関連してちょっと怖しい夜釣りの記事があったのを思い出した。
・グラッテンシュトロームは人間の感覚が存在することから派生しその結果現れるものすべてを追い求め、さらに我々の身体の組成の痕跡や人間の持つ動物的生理の限界と欠陥の痕跡も追い求めた。その結果人間の形をとらない、非ヒューマノイド型文明と人間がコンタクトに成功するなどということはあり得ないし、今後も絶対にありえないだろう、という結論に達した。(P286)
これは作者レフによる仮定の理論であろう。グラッテンシュトロームとは架空のソラリス学者である。「人間の姿形を取らない」主体がいる世界が非ヒューマノイド型文明で霊界もその一つであるが、100パーセント人間である私はそことコンタクトしている。
・(クリスは)現実、本物の現実とよぶべきものはじつはあちらのほうで、目を開けてから見えるものは、その本物の現実の干からびた影のようなものではないだろうか、という逆説的な感覚を持ったのだった。(P299)
これは日本に古くからある常世の思想である。人間はこの世という舞台上を通過する仮の役者に過ぎない。
・時計を組み立てておきながらその時計が計るのは時間ではない。一定の目的のために制度やメカニズムを作っておきながら、作られた制度やメカニズムのほうが目的を超え目的を裏切ってしまう。そして、この神は無限を作り出したのだが、この無限というものがまた神の力の尺度になるはずだったのに、逆に神の果てしない敗北を示すものとなってしまった(P332)
時計は生まれる前から動いており死んでからも動き続ける。人間は前世・この世・死後の世界を循環しており、この世のことだけを考え他の事は忘れてしまった所に神の計画の失敗があったと言えるだろう。
・命の終わりは愛の終わりではないという考えに、何世紀もの間つきまとわれてきたが、それは嘘に過ぎない。そんな嘘を信じるかわりに壊されたかと思えば組み立てられる、時の経過を計る時計に自分はなるべきなのだろうか?そして自分が、無数の反復を通じて滑稽になればなるほど深まっていく苦しみを機械的に時報のように告げる時計でしかないことを知るべきなのだろうか?(P344)
死んだ後次の生までは長いインターバルがある。次の生もまた人間とは限らない。順番を待っている間滑稽とも言える変態や虚無がある。再び人間に生まれ変わることは名誉である。
⑤メデューサとの出会い(アーサー・E・クラーク)
クラークがメデューサをどんな風に描写するか興味があった。私は自分で自分の姿・・・頭から長いタコの触手のようなセンサーが何本も出ている姿・・・を夢で来たことがある。その姿から私を悪魔だと喧伝する者もあるらしい。私が私を見ていたのではなく、私を見ている者の知覚を私が受け取っていたのだった・・・理解してもらえるだろうか?例えば「ネフィリム」の項で少年が土手に身を隠しておりそこにネフィリムの手が突然延びて来た時、私は恐怖で目が覚めた。人間としての私は元々布団の中で寝ていたのであり、土手にいた少年から身に差し迫った危険の映像と心理が伝達され、それを私がライブで受け取ったのだった。だからあの時少年は多分ネフィリムの犠牲になっただろう。彼に逃げる余地はなさそうだった。それと同様に恐ろしい夢や危機的な状況にある夢も、誰かがそこにいて情報を伝達していたのだった。危険を顧みず何があったかを私に教えるためにそこにいて犠牲になった者の数は多いと思う。この本で木星にいるメデューサとは直径100メートル位の傘を持ち、巨大なブロッコリーのような姿をした宙に浮く怪物で、何本もの触手がある。これがメデューサの真実に近い姿なら私はメデューサではなさそうである。
⑥星を継ぐもの(J・Pホーガン 1941・6・27 ~ 2010・7・12)
これは驚愕の一作だった。これを読む途中、物語のポイントにさしかかるたびに以前この話はどこかで聞いたことがあるような気がしてならなかった。「デジデリウム」の項に三浦綾子の塩狩峠の読後感を会社の寮の一室で友人たちが話していて、それを仲間と一緒に笑いながら聞いた様子を書いている。丁度それと同じように誰か二人の間で最近出た「星を継ぐもの」が話題になって、そばにいる私は興味をそそられつつ聞いていた。しかしこの本が最初に出版された当時またはそれ以降(つまり丁度40才を過ぎてから)、どう考えてもそういう付き合いをした友人や会合の場所は思い当たらなかった。だから⑤で書いたようにそれは夢の中での出来事だったのだろう。何故こういう事を書くかというと、この本に対する霊界の反応がこの物語を極めて真実に近いものと認め彼らに受け入れられているように聞こえる。もとより月の裏側で五万年前のチャーリーの遺骸を発見したり、木星の第三衛星ガニメデで背の高い乗組員と共に二千五百万年前の地球上のあらゆる動植物の標本を積んだ巨大宇宙船が氷積めで発見されたりするのには、我々人間の宇宙航海の技術が今より格段に進歩していなければ不可能なのだから、未来を舞台にしたSFという設定にせざるを得ない。
月とガニメデでの遺物を基に地球の物理学者・生物学者・言語学者その他の科学者を総動員して太陽系二千五百万年の謎が明かされる。かつて火星と木星の間にミネルバという惑星があり、既にミネルバ人(彼らの遺骸を乗せた宇宙船が木星の第三衛星ガニメデで発見されたのでガニメアンと呼ばれる)による高度に発達した科学文明があった。ガニメアンは地球上の当時の動植物の生きたサンプルをミネルバに移植していた。その中には地球上で発達して将来人間になるべき類人猿もいた。つまり同じ類人猿が一方では地球でゆっくり進化し他方ではミネルバで急激な進化の経過をたどる訳である(ミネルバ人は遺伝子操作もやっていた)。ミネルバで進化した人類は遺骸(発見者が名付けた愛称がチャーリー)が月で発見されたのでルナリアンと呼ばれる。やがて太陽の輻射熱の冷却(氷河期のことか)により二酸化炭素が増加しガニメアンはミネルバに住めなくなったのでミネルバを捨てる。ミネルバに残された人類は進化しルナリアンとなり先人の遺産を受け継いで高度の文明を築くに至るが、五万年前にランビアとセリアという敵対する二つの陣営に分かれて覇権を争い最終戦争に突入する。ミネルバには衛星があってそこには互いに上空から相手側を攻撃するランビアにはランビア軍の、セリアにはセリア軍の基地があった。余りにも愚かな最終戦争の結果惑星ミネルバは粉々に粉砕され今に残る火星と木星の間の小惑星帯になる。と同時に衛星はミネルバを周回する軌道を外れ太陽に吸い寄せられるが、途中地球の引力に捕えられて地球の衛星即ち月となる(この考え方は月には大量の隕石群の痕跡があるが地球にはそれに相応する痕跡が全くないという矛盾をうまく説明するようである)。この時地球にはノアの洪水のような大変動が起きたであろう。地球と月の関係が安定してから月にいたランビア人とセリア人が宇宙船で地球に降り立ち(生まれ故郷に帰って来た訳である)、彼らはホモ・サピエンスとなって地球上の初期人類を駆逐した。武器がある限りまるで赤子の手をひねるような、レベルの違う争いだっただろう。彼らのうちアフリカに下りた者が最初で、アジアにも南北アメリカ大陸にもオーストラリア大陸にも後続のルナリアンが降り、いずれも高い技術力によりその地の類人猿に勝った。サピエンスが最初アフリカに着地しそこからユーラシア・アメリカ・オーストラリアの各大陸に順次伝播したと見るのは海によって隔たれた大陸間の距離を考えると無理がある(これは私の素人考えであるが・・・)。
ガニメアンの巨大宇宙船が地球の動植物の標本をミネルバに運んだ話はノアの箱舟を連想させるが、この本では月が地球の衛星になった時に起きた大洪水のはるか以前に地球生物のサンプルがミネルバに運ばれたことになっており、創世記とは前後関係が食い違い辻褄が合わない。創世記が間違いではないか。ランビア人とセリア人の対立は文字通り食うか食われるかの、カニバリストと反カニバリストの争いだったのかも知れない。主にカニバリストグループはアメリカ大陸に下りた。なぜなら南米アスティカの宗教はカニバリズムや人身御供の伝統を色濃く残していた。それに反し、他の地域にはカニバリズムの伝統色は皆無ではないが薄い。以上私の勝手な想像が過ぎるだろうか。
物語では20世紀末頃この世界は国単位の軍事開発競争を止め一致団結して国連の指揮下に宇宙開発を始めたことになっている。それで21世紀初頭に地球人が他の惑星に行けるようになったという設定なのだが、現実には先軍主義の北朝鮮、核兵器保有の実態を明かさないイスラエル、核兵器保有の意志ありとされるイラン等紛争の火種は尽きていない。世界は経済戦争の時代に移ってもはや軍事戦争にメリットなしと暗黙に了解されている段階なのに、かたくなに「地球を割ってでも我々のいない世界の存在は認めない」と言い、一方的に日本列島の頭越しに弾道弾ミサイルを飛ばす北朝鮮問題は未だ解決の糸口さえ見出せないでいる。
⑦ガニメデの優しい巨人(J・Pホーガン)
この本を読みながら何故か泣けて仕方なかった。放浪するガニメアンの巨大宇宙船シャピアロン号が先ずガニメデの地球人基地に降り立ち、次にスイスに行ってガニメアンと地球人との交歓会が開かれる話である。この宇宙船は⑥に出たガニメデで発見された二千五百万年前の氷漬けの宇宙船より大分前の旧型宇宙船であるが、太陽系外で危険な実験に失敗し、減速機の故障で宇宙を放浪していた。その推進機能は宇宙船の前におちょこのような小さいブラックホールを作り出し、その中に宇宙船が引きずり込まれることで前進する。この本は時間差を頭に入れながら読まないと混乱する。ブラックホール内では時間が狂うので船内ではわずか20年余しか経っていないが実際は二千五百万年以上が過ぎていた。この宇宙船にゾラックという人知を遥かに超えたコンピューターがあり人間の言葉を覚え人間とガニメアンとの会話の通訳をする。シャピアロン号出発後にガニメアンが地球から大量の動植物のサンプルを運んだことをゾラックは知らなかったし、出発当時地球には衛星はなかったと言う。またミネルバの喪失を知って驚愕し、ルナリアンは心の狂った病人だったに違いないと言う。ベジタリアンのガニメアンの間では争い事は一切なく、希に闘争心のある者は病人として治療された。ミネルバに肉食獣はいなかったから地球でライオンがシマウマに飛びかかる映像を見て恐怖する。ミネルバの科学では④に出た重力コントロールも宙に浮かぶ3基の巨大なプロジェクターによって可能だったし、また物質を自在に消滅させることも出来た。それでもミネルバの科学技術の進歩のスピードは地球人に比べてお話しにならない程遅々たるものだったと言う---「初めて空を飛んでから人類は70年足らずで月面に立ちましたね。トランジスタが発明されて僅か20年後には地球で半分がコンピューターで制御されて・・・」と驚嘆する。シャピアロン号の故障は氷詰めの宇宙船のパーツと取り換えることで回復する。
スイスでは大群衆と世界中のメディアが待っていた。異星人は世界各地の都市を訪問して歓待され、学術会議にも出席する。「北京ではガニメアン文明こそ共産主義の理想を実現したと称賛した」とあるが、②で伺われる中国人の共産主義が心優しいガニメアン文明と似通ったものになるとはとても思えない(②と⑦を読み比べた者が誰でも感じることだろう)。国連は彼らに地球永住を提案する。クルーの中には定住を望む者も多かったが船長の選択は現在仲間たちの住むと思しき遠い未知の惑星への再出発だった。
話しは遡るが、シャピアロン号が失敗したのはある恒星の温度を上げる実験だった。その実験によって恒星は超新星爆発を起こし、シャピアロン号は命からがら逃げて来たのだった。太陽活動の低下による寒冷化でミネルバの住環境が悪化している状況があった。そこで太陽活動を人為的に回復させるプランがあったが、それを実行に移す前の予備実験がシャピアロン号の任務だった。結局その計画は実行されなかっただろう。同様にミネルバ人は自分達の肉体的弱点を補正するために肉体改造する計画があった。それに先立つ実験材料として連れて来られたのが、自分たちに最も近い、その時点で地球で最も進化した類人猿だった。実験はスーパーミュータント・ルナリアン、すなわち脳の活動が毒素によって異常化し、自制の効かない狂暴な--ルナティックな--人類を誕生させてしまった(p310-313)。実験に失敗したが、心優しいミネルバ人は実験動物を殺処分しなかったのだろう。ルナリアンが二陣営に分かれて戦い(鋭敏な感覚の持ち主ならある地域を想起するだろう)挙句の果てにミネルバを消滅させた経過は⑥に書かれていた。つまりガニメアンにとって故国の消滅も自分たちが蒔いた種だったのだ・・限界のない科学万能の思想は神の計画を狂わせた。人類の未来に対する警鐘でもある。
⑧巨人たちの星(J・Pホーガン)
登場人物が余りにも多く話が複雑で難解だしページ数も一番多かったが、引き込まれてワクワクしながら読み終えた。しかしブログに書くためにもう一度目を通すと随分読み飛ばしていることに気が付いた。結局この力作はコケたのではないだろうか。スピリチュアルな裏の世界では実際に悪意ある者達が今まで人間を監視していた。彼らは上位者を欺き人間も彼らの罠にかかっていたという状況はストーリーと相似形なのだが・・・
地球とティユーリアン(表題の巨人たち)の住むジャイスターとジュヴェレンの三つの星が関係する物語である。ティユーリアンとはミネルバを去ったガニメアンが行き着いて定着し進化している社会で、ここは⑦のシャピアロン号が未だ宇宙にあって確証なく目指した世界である。シャピアロンのゾラックと同じようなこの星のコンピュータシステムの名はヴィザー(スペルがviserだとすれば日本語表記はsuperviser, adviser等と同じくヴァイザーが正しいのではないか)。地球とティユーリアンの中間に位置するジュヴェレンには⑥に出たランビアンの末裔が住んでいて、ガニメアンに引き連れられて来てこの星を与えられた。その衛星の名はアッタンである。彼らは地球上の通信や報道を傍受して刻々と監視しティユーリアンにレポートしており、そのコンピュータシステム名はジェヴェックス。以上簡単に顔ぶれを紹介するだけで如何にややこしい話かお分かりでしょう。ジュヴェレンの存在は初め地球人には伏せられていたが、のち程その存在を言い当てるダンチェッカー(地球人生物学者)の推理がすごい。
しかしジュヴェレンのレポートに嫌疑があり(当初地球人は何が疑わしいのか知らなかった)、ティユーリアンは直接米軍アラスカ基地にお忍びでやって来て事の次第を確かめようとする。来訪の事前連絡に当たってティユーリアンとアメリカがジュヴェレンに感づかれないようにするのが一苦労である。疑問のきっかけは遠ざかるシャピアロン号に地球から送ったボン・ボヤージュの友好的メッセージをティユーリアンが傍受したが、それまでティユーリアンはシャピアロン号の地球滞在を全く聞かされていなかった。問い合わせた結果ジュヴェレン側の説明---地球人はガニメアンを敵視し、将来ティユーリアンと対決する意志があり、シャピアロン号乗務員を威嚇して捕え虐待した挙句追放した---は何やら違っていると感じたからだった。
どの知的生物もその星に②に出て来るような巨大パラボラアンテナを立て24時間休みなく360°回転させダンボの耳にしている。電磁波通信だけでなくこの物語で重力波通信(ガニメデにある地球人基地に機器がありガニメアンとの間で利用可能)や顕微鏡的極小ブラックホールを介した通信が出て来るが、最近は他に量子通信も研究されているそうで我々素人には何やら難しい。現在の光ケーブルなぞ幼稚園レベル、5Gでも小学生低学年レベルか。難題はそれだけでなく、アメリカが国連や他国にも知られないよう独断でティユーリアンを受け入れるのだが、この裏事情と駆け引きがまたややこしい。
ともかくティユーリアンはアラスカにこっそりとやって来た。待っていると米軍基地の上空は何者も絶対立ち入り禁止のエリヤなのにボーイングが降りて来る。皆はそれが停泊している宇宙船と地上とのシャトルだと知って驚く。シャトルの中に招き入れられた地球人たちはソファの上に寝かされる。と同時に幽体離脱したかのようにリアリスティックな部屋にいる自分を発見する。彼らがいる場所は室内だけでなくヴィザーの作り出す様々な映像(都市、建物、人々)の中に任意に変化させることが出来るし、人物とその音声も参加者の中から選んで登場させることが出来る。つまり単なる傍聴者はたとえその場所にいても画面に出ないし私語を交わしても他人には聞こえない。ヴィザーが管理するこのマシンはパーセプトロン(知覚伝送装置)と呼ばれ、遥かなジャイスターにあるヴィザー・メインフレームとのやりとりは顕微鏡的極小ブラックホールを回線として介している。
映画「マトリックス」はこの本を下敷きにしているらしいが、映画ではバーチャルな世界で殺されるとリアルな世界で寝ている人間も血を吐いて死んだ。パーセプトロンの作り出す映像が単にグラフィックなだけかというとそうではなく、夢と同じで画像の中の人間も寝ている人間と同じくそれが自分だという実感がある。人間の膀胱が膨らむと映像もトイレに行きたくなり、人間が起きてトイレに行くとパーセプトロン中の映像がフッと消える。夢の場合はもう一人の自分が霊界にいて、もう一人の自分が消える訳ではなく彼もトイレに行くだろう。私はいくらコンピューターが進んでも②の三体ゲーム程度で、パーセプトロンのようにCGと人間が知覚的にも感覚的にも主体的にも結びつくことはないと思う。
二人の人間がソファに横になってすぐ意外な映像を見る。それはシャピアロン号の乗組員たちが地球訪問中虐待され投獄され宇宙に追放される映像である。また地球は軍備増強しティユーリアンへの侵攻を準備している。これに二人は当然「嘘だ、ありえない」と眠ったまま反発し、ティユーリアンもそれがにせ情報であったことを確認する。これが実はジュヴェレンからティユーリアンへの報告だった。
パーセプトロンの映像の中でティユーリアン人と人間がテレビ会議する。ここでジュヴェレンの存在が明かされ、人間たちはティユーリアンが抱いた疑惑が何であったかを知る。また歴史に話が及び地球に来てサピエンスになったのはセリアンだけでランビアンはすべてジュヴェレンに連れて行かれたと説明を受ける。ティユーリアンによってアフリカに運ばれた一握りのセリアンからサピエンスが始まった(そうだとすると⑥に書いた私の推測も的外れだった)ことになるが、その中から誰かが遠く海を渡ってオーストラリアのアポリジニーになったとは信じられない(後ろから「君の考えの方が正しい」と声がした)。またジュヴェレンがティユーリアンに負けず劣らず進歩したのに、片やセリアンのサピエンスは類人猿の最進化版程度にしかなれなかったというギャップはなぜ生じたかが議論され、それは月が衛星になったことで地球の環境が激変したせいだということで皆納得したようだが、そうだろうか。ランビアンは新天地ジュヴェレンで当時のティユーリアンと同程度の科学文明を享受して技術的なドキュメントも入手可能だったろうし、既に進化した技術的成果物が手近にあればリバース・エンジニアリングで学ぶことも出来たではないか。他方セリアンが地球に持って来たものはDNAくらいしかなかった。両者の発展が分かれた原因は置かれた環境の余りにも大きな違いであろう(p-446 ランビアンはティユーリアンからどんどん知恵を失敬して自分達の計画を先に進めていた)。
ティユーリアンはミネルバ崩壊前後のビデオも持っていて、地球人たちはパーセプトロンでその早送り映像を見せられた。⑥に出たチャーリーは日記を残しており、その中に書かれていた戦友コリエルがミネルバの月に残留していたのを救出されアフリカに運ばれるシーンも出た。
丁度その時ジュヴェレンの指導者ブローヒリオから今地球に来ているティユーリアン代表のカラザーに連絡が入って会見を申し込む。地球人も聞いていた二人の対談で既述のジュヴェレンのニセ情報が暴露されブローヒリオは一方的に会談を中止しティユーリアンに宣戦布告する。ジュヴェレンの宇宙戦艦5隻がティユーリアンに向け発進する。ここでもしヴイザーがジェヴェックスに介入可能ならジュヴェレン軍勢を抑止できるが、ジェヴェックスは自衛グリッドを張って介入を阻止している。そこで自力走行できる旧型のシャピアロン号(すでにヴィザーによって捕獲されていた)を自衛グリッドの内側に行かせる。もしヴイザーとゾラックがコネクト可能ならゾラックを経由してヴイザーがジェヴェックスに介入することが出来る。しかしジェヴェックスの守りは固く、コネクトするにはジェヴェックスの一瞬の隙が必要である。
コネチカットにはジュヴェレンのスパイの屋敷がありジェヴェックスの端末があった。そこを米軍特殊部隊が急襲して端末を手中に収め、あたかもスパイからの連絡であると装って、地球艦隊がジュヴェレン攻撃のために発進したとの緊急ニセ情報をジェヴェックスに流す。ジェヴェックス自身それまで地球軍が軍備増強しているとのニセ情報を打ち込まれていた。スパイからの情報を真に受けたジェヴェックスが地球軍の侵攻に関心を持ってそちらを向いた瞬間にヴイザーとゾラックのコネクトが成功し、ヴイザーはジェヴェックスの無力化に成功する。ジュヴェレンの科学長官は狂ったジェヴェックスの電源を切る・・・ジュヴェレン社会は大混乱に陥っただろう。ジュヴェレン軍勢もニセ情報を真に受けて宇宙戦艦の軍団は急遽進路を変えジュヴェレンの衛星アッタンに集結することになる。アッタンはジュヴェレンの武器庫であり自身のコンピューターがある。ジュヴェレン軍勢がアッタンに逃避すれば厄介なことになる。艦隊は逃避用のブラックホールを作るが、ヴィザーがアッタンのコンピューターと争いブラックホールの出口をアッタンに定めることを妨害する。その結果5隻は宇宙のとんでもない場所にばらまかれる。更にヴィザーは時空を拡大処理して5隻を過去に送り込む。地球人が見守るモニター上に5隻が再発見されたのはミネルバが粉砕される200年前の太陽系だった・・・
ミネルバ崩壊の200年前といえばもうセリアンとランビアンの対立は始まっていただろう。だから粉砕の原因となる大戦のクライマックスに超未来的な5隻の宇宙戦艦が関与したことは十分考えられる。だとすれば先にパーセプトロンに映写されたミネルバ崩壊前後のビデオに5隻のジュヴェレン宇宙戦艦も映っていなければならない。しかし映っている筈がない。記録と歴史的事実に矛盾が生じ記録の信憑性が失われることになる。これはタイムパラドックスである(余計な心配だろうか)。
一件落着してアッタンを査察するとそこに完成間近いカドリフレックスを見出してティユーリアンたちは驚く。目的はカドリフレックスを太陽系にセットして地球人の活動を太陽系内に封じ込めるためである。それだけでなくティユーリアンもその星系内に封じ込め、ランビアンは宇宙で我が物顔に振る舞まうとの隠された意図も持っていたことが分かった。
最後にアラスカ上空にいたティユーリアンの宇宙母船はメリーランド州アンドリュー空軍基地に移され、そこで歓迎のセレモニーが開かれるところで終わる。
ホーガンがこの物語を書いた意図は何だったのだろうか。彼は「知っていることを全部書き尽すまでは死ねない」と言っていたそうである。私は霊界で「君はランビアンか?」と聞くと「うん」と答える者がいると聞いた。地球人には旧敵がいることを知らせたかったのだろうか。地球人に強烈な対抗意識のあるランビアンが悪魔またはイエス以前の神々なのだろうか(たった今「俺たちは悪魔ではないぞ」と声がした。声の主は多分ランビアンだろう)。ホーガンはUFOについては全く触れていない。また信仰や死後のことや神についても全然否定的である。しかし死後「お前は死んでもいるではないか」と問われて答えに窮したらしい。上述の物語でコネチカットのジェヴェックス端末からニセ情報を流したのはヴェリコフというロシア人だった。彼はジュヴェレンの元エージェントだった(だからジェヴェックスも彼を受け入れた)が寝返って地球側の工作に協力した。それで彼は褒賞を受け「人類史上初めて地球市民権を認められた異星人となった」(p-458)と書かれているが、③の物語にもあるように異星人はもうとっくに人間の形をして紛れ込んでいると考えた方が正しいと思う。イエスもそうだったのだしホーガン自身もそうだろう。或いは私も?ホーガンと私は同年生まれで私から見れば彼が早死になのが惜しい。
このシリーズの何処かに書いてあったのだが、地球人とガニメアンとの会話で「なぜミネルバは地球よりずっと早く科学文明化したのか」と問われて、ガニメアンの科学者が「それは太陽から遠いミネルバの方が早く冷却して生命が生まれる好条件が先に整ったからだ」と答える所があった。これで私は納得したのだが、だとするとミネルバより先に土星人・木星人の科学文明時代があって今は住めなくなり、ミネルバの後に火星人の文明時代があったのだと考えても良いのではないか。また地球のあとに金星・水星の時代が来るのかも知れない(そうだとすれば金星人・水星人なんてナンセンスということになるが、宇宙で星を失った誰かが工夫して住んでいるかも知れない)。いまは地球の時代で、霊界は地球人の死者だけでなくそういう太陽系内外の異星人の生き残り集団をも含んだ世界であり、従って先進的な文明の経験者がいてコンピューターワールドだとしても不思議はないと思う。
殻(シェル)とも呼ばれるカドリフレックスとはジュマンジのことだろうか。我々は誰かが仕組んだ檻のなかにいて出口は一か所またはもう一か所位しかなく、ジュマンジを通ってだけしか外に出られないらしい。行きはよいよい帰りは恐い、である。その檻がどんなサイズなのかは知らない。